故人を介護看護した親族も金銭を請求できる!!

相続人ではない人も故人の財産の維持や増加に貢献するケースもあります。そのような場合も、これまでは、相続人ではないからという理由で遺産については何の分配も受けられなかったため、不公平感を覚える人が少なくありませんでした。

そこで、今回の相続法の改正により、故人の療養看護その他の労務を提供するなどの貢献をした場合には、相続人でない者であっても、一定の財産を取得させることが認められるようになりました。

いわゆる長男の嫁の立場も報われる!?

改正前は、故人に対して生前、相続人が療養や看護を行っていた場合、一定の要件のもとに寄与分による調整が可能でした。

ただ、療養や看護を行っていた人が相続人ではない場合は、遺言書に記載されていない限り、相続財産の分配を受けることができませんでした。

一般に長男の嫁は、長男の親が亡くなる前に、その親に対する療養や看護を行うケースが少なくありません。

ところが、長男の嫁は相続人ではないので義理の親の財産を相続する権利がないのです。

長男が相続するのであれば、長男が受けた相続の恩恵を実質的に長男の嫁も受けることはできたかもしれません。しかし、長男がすでに亡くなっていて、さらに長男夫婦に子がいない(すなわち代襲相続する者がいない)となると、その嫁は義理の親の介護をしていたとしても、その財産を相続することができなくなってしまうのです。

長男や他の相続人は療養や看護をまったく行っていなくとも相続によって取得する財産がある一方、長男の嫁は献身的に療養や看護を行っていたにもかかわらず、何の財産も取得できないことになります。

そこで、改正法では、「相続人以外の親族が故人に対する療養や看護などによって故人の財産の維持や増加に寄与した場合には、相続人に対し、寄与に応じた金銭請求をすることができる」と規定されました。

相続人が複数いる場合は、それぞれの相続人に対し、それぞれの法定相続分に応じた金銭の請求ができます。

ただし、請求権のある人は、故人の親族に限定されます。故人の親族ではない人が故人の療養や看護などによって故人の財産の維持や増加に寄与をした場合には、特別の寄与について金銭請求をすることは認められていません。

「遺産の一部分割」を明文化、分割前処分の不公平も是正

共同相続人は相続人全員の協議により、遺産をどのように分けるかを決めることができます。

これを遺産分割といいますが、遺産分割は、遺産全部を対象に行うのが原則で、一部分割については明文の規定がなく、一部分割が許されているのか必ずしも明らかではありまんでした。

しかし、争いのない遺産は先行して分割できたほうが有益であり、たとえば預貯金のみ先行して遺産分割を行うなど一部分割を行うニーズもありました。

そのため、実務上も、一定の場合には一部分割が認められていました。

そこで、今回の改正相続法により、一部分割とその要件が明文で規定されることになりました。

そして、相続人の間で遺産分割がまとまらなかった場合には、各相続人が遺産の全部または一部の分割を家庭裁判所に請求することができます。

ただし、他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合、すなわち一部分割によって遺産全体についての適正な分割ができなくなってしまうような場合には、一部分割はできません。

遺産分割の前に、故人の財産が処分された場合の不公平を是正

遺産分割は、相続開始時に存在し、かつ遺産分割時に存在する財産を対象に行うのが原則です。

そのため、遺産分割の前に故人の財産が処分されたような場合、相続人の間に不公平が生じる場合があります。そこで、その不公平を是正する方策が改正相続法により新たに規定されました。

それは遺産分割の前に処分された財産を共同相続人全員の合意によって遺産分割の対象財産とする規定です。

さらに、共同相続人の1人が自分の都合で故人の財産を処分した場合には、その共同相続人の同意を得なくても遺産分割の対象とすることが認められるようになりました。

この改正によって、相続人の間の不公平が大幅に是正されることになりました。

遺産分割協議の前に、預貯金を払い戻せる「仮払い制度」

遺産分割に関連する改正の1つに、「遺産の分割前における預貯金債権の行使」というものがあります。

従来は遺産分割協議の前は各相続人が単独で故人の預貯金からお金を払い戻すことは認められてはいませんでした。それが今回の改正により、一定の条件のもとで一定金額まで払い」が認められるようになりました。

「共同相続」を前提とした相続人の負担を軽減

この改正は、「相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払いのほか、相続する債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも払い戻しが受けられる制度を創設する」というものです。

この「遺産分割前にも払い戻しが受けられる」というのが、「仮払い制度」ということになります。

相続人の資金需要に対応する2つの仮払い制度

この仮払い制度として創設された内容のうち、1つは、「家庭裁判所に対する仮分割処分の要件を緩和する」というもので、従来の制度について要件を緩和し、利用しやすくしたものです。もう1つは、まったく新しい制度として、次のとおり創設されました。

・金融機関ごとの金額による上限を設けたうえで、一定割合の預貯金の払い戻しを、各相続人が単独で金融機関の窓口で受けられるようにする。

この「金額による上限」については、下の例のように計算します。

相続を開始した時の預貯金の額(金融機関ごと)×3分の1×その払い戻しを行う共同相続人の法定相続分

例えばある銀行の口座に故人の預貯金が900万円あり、共同相続人が配偶者と子2人で、子が仮払いを受けようとする場合、「900万円×3分の1×4分の1」で、75万円が払い戻しできる額となります。

ただし、上限額は金融機関ごとに判断することになるので、故人が1つの銀行に複数口座をもっている場合には、それらを合算した金額をもとに上限を算出することになります。なお、払い戻しを受けた預貯金については、遺産を一部分割により取得したものとみなされます。