「遺留分」とは、故人の兄弟姉妹以外の相続人に対して留保された相続財産の割合のことで
す。
つまり、故人の子のほか、子が他界していた場合の孫などの相続人に最低限認められて
いる相続財産の割合であり、配偶者や子については法定相続分の2分の1と規定されていま
す。
たとえば、遺産を1人の相続人にすべて相続させる、という遺言がなされたとします。そ
の場合、相続できなかった他の相続人は遺留分が侵害されたことになるため、遺産を取得し
た相続人に対し、遺留分の減殺請求をして、遺留分すなわち最低限の相続財産の確保をめざ
すことになります。
この遺留分制度についても、今回、改正が行われました。
遺留分はすべて金銭で請求する!
遺留分制度の改正点は次の2点です。
①遺留分の権利行使により侵害額に相当する金銭債権を発生させる
従来は遺留分の権利(遺留分権)の行使により、それぞれの遺産が遺留分を侵害する限度
で当然に共有となっていました。しかし、そのような複雑な権利関係が発生しないようにす
るために、遺留分についてはすべて金銭で請求するようにしたものです。
②金銭をただちには準備できない受遺者(故人の遺贈を受ける人)または受贈者(故人から
生前贈与を受けた人)のために、受遺者等の請求によって、裁判所が金銭債務の全部また
は一部の支払いについて相当の期限を設けることができるようにする
これは、遺留分の侵害額の請求があった場合、請求を受けた他の相続人や遺贈によって財
産を取得した人などが、ただちに支払いできない場合でも、侵害額請求に応じやすくするた
めに一定の猶予を与える規定といえます。
自筆証書遺言の書き方について、遺言書のすべてを自筆で書かなくても、パソコ
ンなどで作成した財産目録を添付したり、銀行の通帳のコピーや不動産の全部事項証明書な
どを財産目録として添付したりすることも可能になりました。
パソコンで作成しても署名押印は必要
自筆証書遺言は文字どおり全文を自筆で書かなければなりませんでした。とくに高齢者に
とっては書くこと自体の負担が重く、また正確に記すことなどに関してハードルが高かった
ものです。財産が多い人にとって、その負担は相当なものでしょう。
遺言書における財産目録となると、不動産の所在、地番、地積などを不動産登記簿にある
ように正確に自書しなければなりません。パソコンを使って書き、間違えた箇所を書き直す
といったこともできませんでした。
それに預金額についても、ゼロを1つ書き損ねたりすると、実際の預金額とは異なります。それ
が発覚すると、相続人が遺言書どおりに正しく相続することができなくなっていました。
ところが、改正後は財産目録をパソコンで作成したり、また不動産の全部事項証明書など
を添付してもよいとされました。とくに、農地や広大地といわれるような土地を所有してい
る人は、地積を記入する際にケタを間違うケースもあります。
その点で、財産の多い人にとって財産目録がパソコン文書や不動産の全部事項証明書など
の添付でよくなることは、大きく利便性が向上することとなります。加えて、高齢者でも遺
言を正確に記し、残しやすくなる効果も期待されます。
相続法では、遺言制度に関する各種の規定も改正されています。その1つは、「遺贈義務者の引渡義務に関する責任の限定化」です。
相続に際して故人からの遺贈があった場合、遺贈を実行すべき義務を負う人(遺贈義務者)は、遺贈する物や権利を、「相続が開始した時点の状態」で引き渡し、移転すればよいことになりました。
また、「遺言執行者の権限」も明確化されています。遺言執行者は文字どおり「遺言を執行する人」のことですが、法律上その権限が明確には定められていませんでした。
そのため、遺言執行者と相続人との間で利益が対立する場合には、トラブルに発展することもありました。
そのようなこともあり、遺言執行者の権限について明確化されています。
これら以外にも遺言制度についていくつか改正が行われていますが、故人の生前もしくは相続人にとって直接的な影響が大きいのが、「自筆証書遺言に関する保管制度」の創設です。
法務局で遺言書を保管してもらう
遺言は主に、①自筆証書遺言②公正証書遺言③秘密証書遺言の3つの種類があります。
このうち①自筆証書遺言は文字どおり故人が生前、自筆で書く遺言書であり、最も一般的な遺言書といってよいでしょう。
そして、自筆証書遺言は自宅のタンスや仏壇、重要なものを保管する箱などにしまっておくことが多いようです。
そのため、故人が亡くなったときに遺言書の保管場所がわからなくなってしまったり、複数の遺言書が見つかったり、誰かが遺言書を隠したり書き換えたり、さらに、遺言書があっても文面に不明瞭な記述があったりと、遺言書の役割を果たしていないと判断できるケースも多々あります。
そのような事態を少しでも解消するため、法務局という公的機関で遺言書を保管する制度が創設されたわけです。検認は不要。
紛失や改ざんを防ぎ、相続手続きの円滑化につなげる自筆証書遺言でも、法務局という公的な機関が保管すれば、遺言という故人の最終意思が実現される可能性が高まりますし、それは相続手続きの円滑化にもつながります。また、全国一律の対応ができることになり、紛失や改ざんを防ぐこともできます。